Brawlerの流れ


1977年10月の楽器フェア(東京・科学技術館)において、BWの始祖にあたるプロトタイプが展示された。この年グレコから出品されたギター/ベースには、コピー・モデルが1機種もなく、まさに「Guitar revolution from Greco in 1977」と言った様子だった。引用した英文字は展示機ヘッド裏の金属プレートにあったもので、市販品でも1978年のGOの初期〜前期型に同じスタイルが受け継がれたのでお馴染みだろう。

初めて現れた「BWのためのプロト」は市販品とは大きく姿が異なる。2シングルPUである点は共通だがヘッドは3対3のペグ配置を持つスタイル(後のCV550やSV後期型に似た形状)で、ポジションマーカーは後期型のGOと同じオーバル型。コントロール部に大型の3角形金属プレートを備え、ボディのバインディングは採用されていない。特徴ある形のピックガードや、ノントレモロながら新設計の一体型ブリッジも大いに注目を集めていた。

ショート・スケールと紹介された点を含め大いに野心的なプロトだったが、GOのプロトであるGO−A1A4に比べるとまだまだ荒削りな印象だ。事実GOに関しては1977年末から市販モデルの出荷が始まったが、BWの発売はCV550のパイロット販売を経て1978年11月の楽器フェアまで待たなければならなかった。こちらの「楽器フェア」は神田商会がホテル・グランドパレスを会場に独自開催したもので、今日まで続く楽器フェアとは主旨が異なる。

発表された市販型は多くの部分がGOllと共有化されていた。ヘッド形状、ブリッジ回り、コントロール、PUが共通部品に置き換えられてしまったため、CV550のような際だった個性が感じられない。1978年11月に配布されたカタログには「TT(タバコブラウン/トレモロ付き)」と「NT(ナチュラル/トレモロ付き)」の写真が掲載されたほか、文字で「MBT(メタリックブルー/トレモロ付き)」と「RT(レッドサンバースト/トレモロ付き)」が紹介されていたが、このうちRTの個体は未だに見掛けたことがない。

GOllではノントレモロのモデルも知られるが、BW600のトレモロレスは「ほんの僅かの本数」が作られたに留まりカタログへの掲載すらなかった。品番からするとBWでは全ての末尾に「T」の文字があるが、実際にはトレモロ付きモデルばかりなのでこれを表記する習慣は非常に曖昧。GOllでも後期になると、トレモロ付きであっても「T」の表示は省略されてしまう。「通巻番号カタログ」へはGOllを含めてテンション・アジャスター・ブリッジ版の紹介がなく、ノントレモロ仕様が非常に短命だったことが伺い知れる。

当時の状況を総合すると、テンション・アジャスター・ブリッジはT.S.ビブラートに置き換えられてしまったらしい。元々GOはノンビブラートが基本、GOll、BW、GOlllなどでも開発段階では固定ブリッジだったと考えられる節がある。T.S.ビブラートの完成は「選考会」の告知にさえ間に合わなかったが、「誕生」と同時に主役の座が与えられた気配だ。しかし、ことによるとT.S.ビブラートは、ミュージックマンのギターを、フェンダー・ストラトキャスターと競わせるために作られたのかもしれない。ボルトオン以外のギターにこの手のユニットを取り付ける潮流が、あまりにも突然、しかも不自然に始まった気がしている。

1979年7月配布のカタログになると、「BMT」と「BLT(ブロンド/トレモロ付き)」の写真が追加されたが、なぜか「RT」の文字は姿を消さず、ノントレモロ・バージョンの紹介も相変わらずない。カタログの写真ではTTとNTはゴールドのコントロール・ノブ付きだが、実際の個体を見てみるとブラックの部品を取り付けて出荷されたようだ。この間1979年5月のVOL.10カタログにはBW600の収録がなく、GOllの廉価版であるGOll600と500(セットネック)がデビューしている。

BW600を実測してみると、よく言われるショートではなく314スケールになっている。開発時期のコンセプトだったショート・スケールは、市販までの間に採用見送りとなってしまったのだろう。GOllと共通部分が多くミディアム・スケールとあっては、GOll600/550との共存は難しく思われる。BW600については「広告型の広告」もなく、カタログから引用したようなスタイルの告知ばかりだったことから考えても、内部調整の末に主流とはなり得なかったのだろう。

ジューシィ・フルーツのイリア(奥野敦子)さんが使用し、かなりよく知られたモデルなのだがBW600の現物は非常に少ない。生産に関して記憶がある方によれば「1〜2回作ったかな」といった程度。一度目は「選考会」に合わせての生産で、2度目は展示により受注した分の生産なのだろう。ノントレモロに関しては「1〜2ロット(1ロット6本)」とも聞いた。これはT.S.ビブラートが完成する以前に作られた物だと考えている。1970年代末のオリジナルモデル期を考えるとき重要なモデルで、存在感が強い割りには謎めいた印象があるのも、生産数を考えると当然なのかもしれない。

絶対的に少数派のBW600だが、現在の目から見てもなお新鮮な印象がありファンが多い。急速にオリジナルモデルを多機種開発する波に埋もれてしまったが、むしろ当時のラインナップの中で最も近代的なギターだった気がしてならない。販売されたギターではブルーメタリックとタバコブラウンのものが中心で、ブロンドやナチュラルはさらに数が少ないようだ。指板のローズ/メイプルの別と組み合わせると、どの仕様でも大変に稀少なギターだと考えらる。

この他にも開発に紆余曲折があったのか、ジャーマン・カーブ状のトップを持つノーバインディングのギターが確認されている(22フレット仕様)。こちらは前述の「1978年楽器フェア」が「選考会」としての機能を発揮した結果で、24フレットへアクセスしにくい、ボディトップが角張っている、もっとコンパクトになどの要望を取り込んだ物のようだ。